陸上自衛隊のエンブレムについてデザイナーが思うこと

Twitterのタイムラインを見ていて気になった東京新聞の記事。

記事:http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201606/CK2016060302000121.html

これに関するツイートや様々な見解がSNS上でも散見され、撤回署名運動まではじまる騒動に…

僕はデザイナーなので、このエンブレムに対して、あくまでデザイナーという視点からこのエンブレム問題を深読みしてみたいと思う。

 

東京新聞の記事:

これまでは「守りたい人がいる陸上自衛隊」のキャッチフレーズとともに人に見立てた日本列島を手のひらで包むシンボルマークを使ってきた。人と国土を守るメッセージが込められていたが、エンブレムからは人が消え、日の丸に象徴される国家を守る印象を強めている。「手のひら」から「日本刀」への変化も象徴的だ。

 陸自のシンボル桜星を下段中央に置き、「陸自が前進する姿を国鳥であるキジの翼でイメージ化」(陸自ホームページ)したという。

 

へーそもそもそんなエンブレムってあったっけ?
とさっそく検索してみると、たしかにあった。

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ちなみにこれがこれまで使用していたもの。あえてエンブレムとは呼ばない。
なんだろう、意図はわからないでもないが、つまづいたトクホのような、そんなエンブレム…

 

そして新しく作られたエンブレムがこちら。
陸上自衛隊公式ウェブサイト:エンブレムについて
http://www.mod.go.jp/gsdf/about/emblem/

スクリーンショット

 

公式サイト内や記事内にもあるが、エンブレムの改定の経緯を要約するとこうだ。


・国際状況における海外派遣等の協力任務の増加、防衛交流の拡大

・その交流等における国際儀礼上、メダルや贈答品の交換がある

・そういえば陸上自衛隊としては作っていなかった

・海外の軍人と交換するメダルや贈答品が必要

・これを機に幅広く陸上自衛隊のアイデンティティの再認識を図る

・今回のデザインに至る


この経緯を読めば、作成に至る必要性はわかる気がする。
さすがにつまづいたトクホは威厳もなにも、グッズにしたところで意匠性に欠ける

 

あらためて今回のエンブレムデザインをみてみると、エンブレムデザインの必要性もそのコンセプトもわからなくもない。むしろ以前のマークのそれよりは、良くも悪くも『意図すること』がよりよく伝わるデザインに仕上がっていると思う。

歴史、伝統、文化、このエンブレムを背負うものの強い意思のような、そんな部分だ。

 

ただ、このご時世と発表のタイミングもあり、政府の改憲にかける意図?に紐付けて深読みしたり、エンブレムの印象を意図していなかった角度から見てしまう人も当然にいるだろう。憶測や推論の域もでないので、ここでは触れない。

 

新エンブレムに対する声のなかでもよく目に止まったキーワードが、「恐い」「軍隊っぽい」「旧日本軍」とか、やたら「戦争」につながる言葉が連想されること。では一体何がそう感じさせるのか、デザイナーの目線から勝手に分析しようと思います。(デザイナーでなくともできるような分析なので過度の期待は禁物です;)

 

【デザイナーから見て(デザイナーでなくとも)気になった2つの表現と改修案】

 

1:日本刀(抜刀)が描かれていること

これは、「描かれている」という浅い意味あいではアニメや時代劇でも同じことかなと。引っかかるのはこれが「陸上自衛隊のエンブレム」に描かれているというただ1点。伝統・文化としての日本刀の存在意義ももちろんあるとは思うが、これが鞘から抜かれた状態だからさぁ大変。

 

これが単純に「恐さ」に直結してるんじゃないかな。

 

単純に時代劇の話であれば、城下町をあるくお侍さんが鞘に刀を収めた状態で歩いている。これにはおおよそ大衆は驚くことはないけど。

では、刀を抜いた状態で、しかも鞘とクロスさせながら歩いたらどうだろう。これはお侍であっても、町民は「おや!?なにごとだ?」となるはず。

人は無意識に刃物=切れるものをつつみ隠さずに手に持ち歩くことは、少なからず「危険」を感じる生き物だと思うので、この刃物から連想させる危険なイメージが、背景やそれを掲げる組織イメージと相まって、恐さにつながっているんじゃなかろうか。

 

武士論的な側面を語れば、武士にとって刀は、最後の最後まで刀を抜かずに、いかにその過程や交渉で話をまとめるか、という話もある。

面白かった記事:https://www.rinkak.com/creatorsvoice/sumisaya-4

 

この話が頭の片隅にあったとすれば、鞘に収まった状態の刀という表現に落ち着いて、ここまで話は大きくならなかったのかもなと,,,
ルパンに出てくる五右衛門も簡単に刀は抜かない。簡単に切れてはしまうが、たいていは「またつまらぬものを切ってしまった」と後悔?しきり。

 

一方で、日本刀はある種、海外土産でも喜ばれる日本のアイデンティティと言ってもいい。NINJA(忍者)、SAMURAI(侍)など、日本古来の武術的なかっこよさは海外ウケもいいだろう。今回のエンブレムの製作背景にもあった儀礼の「エンブレム交換」という目的における一定の効果は容易に期待できる。

 

 

2:刀と鞘がクロスする構図

これはよくエンブレムで見られる構図。交差する中心を中央にもってくることで、不安定な図案もほどよく安定する。いろんなところで見られるデザイン上の処理だ。これがクロスする意味、つまり交わる、乗算、関わりあう、コラボレーションなど、意味や意図も比較的容易に想像できる。

今回のエンブレムにおいては、いくら自分の刀と鞘とはいえ、単純に「刀を交えている」=交戦を連想させやすい。軍旗やエンブレムにおいてこの構図で武器をクロスさせる表現は珍しいものではないんだろうけど…

 

世界の軍のエンブレムまとめ:http://matome.naver.jp/odai/2141647914636372101

世界の軍旗まとめ


そしてこのクロスした構図、なにかと似ている、そう、海賊旗
ワンピースのように可愛い骨ならまだしも、日本刀と判別できる刀と鞘の交差は、あまり穏やかな表現ではないかな。

 

3:じゃあ、どうすればいいか

今回のエンブレムデザインにおいて、デザイン上惜しかったなと思う上の2つを克服するために、どうすればいいか。真剣に考えてみた。だって同じデザイナーだから。

まず、従来から踏襲され普段から使われている「桜星」や日本を感じさせる赤い丸、47枚の雉の翼、このあたりの表現はとってもうまいまとめ方になっていると思う。羽の枚数は左右で違うけど、パッと見には同じように見えるように調整されているし…

 

問題は、刀。

 

もし仮に表現上絶対条件となっているのであれば、刀は鞘に収めたい。いれるのであれば、水平に、中央を走るようにさりげないモチーフで。垂直は降り下げる刀のイメージにもつながりそうなので。床の間に鎮座させているような『静かな刀』が理想的。

絶対条件でなければ、刀にも見えなくはないけど、完全に刀であると断定できるような表現を避けたものを考えたいな。雉の羽があるなら、そこに吹く風を文様にしたり… 日本の伝統模様で風/雲がモチーフのものがきっとあるはず。

 

センターになにか欲しいとなれば、刀の代替モチーフになりうるもので、日本の自衛隊を代表するもの…ベタだけど富士山とか(演習場もあるし)

 

 

オリンピックのエンブレム問題をきっかに、いろんな人がエンブレムやデザインを見て、感じて、発信して、デザインに対しての議論が白熱することも増えてきた。それはすごくいいことだと思う。ただ、そのデザインの背景には、永く使われていくことが前提のエンブレムやロゴマークであるからこそ、担当者やデザイナーの苦労、決定に至るまでの難解なプロセスがきっとある。

だからこのエンブレムを見て、現政権は〜とか、戦争反対〜とか、デザイナーは誰だ〜とかひどいデザインだといった批判や嫌悪ではなく、どうしたらもっとより良い意匠になるかをキーワードとして抽出し、このエンブレムの担当者やデザイナーに知らせてあげたい。

 

完成したデザインに対していろいろとツッコミはいれたくないけど、いろんな人がいろんな意見や思想を持つ領域に関わるデリケートなデザインだからこそ、どうすればより良いエンブレムになるかを、いろんな視点や主義主張も交えて考えるいいきっかけになる事案かな…世論はどう動くやら…

 

よりよい解法をみつける思考や過程こそ、そもそもの『デザイン』だと僕は信じています。
そしてこのエンブレムを交換した先で「あぁ、これが日本の自衛隊か、さすがだ」と思ってもらえる形に昇華することを願ってやみません。

関係ないかもしれないけど、日々任務にあたる自衛隊のみなさん、今日もお疲れ様です。ありがとうございます。僕が安心してデスクで仕事ができるのもみなさんのおかげです。